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無視して会場内へ足を踏み入れた途端、グッと二の腕を引かれてかなり吃驚した。
だけど、男のスーツが目の前にあって顔をしかめる。
「プレート。忘れてますよ」
言いながら、アタシの首へ名札の付いた赤いネックストラップを掛け―…
『イタッ』
「申し訳ない!袖口のボタンに髪が」
…何この状況。
めっちゃ近いんスけど。
言っちゃ悪いから我慢するけど
初対面の女の腕を掴むな
名札も渡せって話
髪にボタン絡ませんな
「髪、柔らかいですね」
普通だわ!
『まだですか?』
引く付く口元を耐えに耐えて、営業スマイルで責めた。
「絡んで…ご縁ですかね」
引き千切ってやる!
『失礼』
面倒にもなったアタシは、男の手を掴んだ。
『―え!?』
掴んだらアッサリ、頭から離れた手。
『ッ!』
やられた!
『絡まってませんが』
「…絡みますよ。これから」
ニッと笑った男から。
アタシと同じ、匂いがする。
『直ぐ坊主にします。男の香水も嫌いです』
「ふッ!面白い人だ。坊主に?そういう意味じゃありません」
分かってるし
『あなた、面白くないですね』
ウケてたまるか…
敵であります軍曹!
「上総さん」
『何でしょう織田さん』
「ハハ。一乗寺ですよ。桜でも構いませ―」
『ご用件は?勅使河原さん』
「ジャージ」
『!』
「どこへやったんです?」
『フロントへ。ご存知の筈』
コイツ…いつから!
「そんな身構え…てませんね」
『ヤバい人ですね梅さん』
「桜[オウ]です。ヤバい?あぁ…ヤバいと思いますよ?」
馬鹿馬鹿しい。
自分でヤバいなんて言う奴を、ひたすら冷めた目で見上げ…
見上げなきゃなんないのが凄いムカつく!
『友人が待ってますので。失礼します一之瀬さん』
「一乗寺だっつってんだろが」
漸く、本性出したか。
『覚える気がないっつってんのが分かんないの?顔だけ野郎』
「顔だけじゃねぇって試すか?上総」
『暇つぶしは他でやんなよ』
キッチリ、締めてたネクタイを鬱陶しげに緩めた男が喉を低く鳴らす。
「分かってねぇな。その内」
分かってない?
「あんたはオレに抱かれんだ」
『何言って?分かってないのはあんただよ』
眉を潜めた男を嘲笑った。
『耳、かして…』
男のネクタイを締め直しグッと引く。
『あんたがアタシに抱かれんの…滅茶苦茶に…ね』
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