序ノ口

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シレッと言う男に、円香は目をこれでもかと細めた。 多分…アタシと同じ事思ってる筈だ。 「ちょっと、余計な―」 『嘘ばっか』 サクランボが大好きとか、知ってる訳ない。 初めて会ったんだから。 「嘘?ではありませんよ。そもそも上総さんがここへ来たのは…何故?」 『…は?円香に来なきゃボコるって脅され―』 「あたしはマフィアかッ!」 『マフィアでもしないよ』 そんな安い事。 「ううんあたし…マフィアより酷いッ…ごめん!」 『な、何、何が』 ガバァッて…激しく抱擁され、お皿を持ってなくて良かったと思った。 「あたし…上総を売った…事を一乗寺めバラしやがって」 『………何が?』 「何がじゃなくて上総の情報?的な?ちょっと小噺的な」 『落語家?』 「ゴリゴリの医療事務」 だよね。 『何が…』 「何がじゃなくて、あたしが…ある人に頼まれて上総の情報を流して、今日のパーチーも…」 「円香さん」 『ッ!!』 不意に割り込んできた声の主に アタシは 『―』 息がとまってしまった。 「あ!上杉さぁん!も~遅いですぅ~」 『うぉい』 とまってた息は、円香の変わり身の術によって復活。 「申し訳ない。フロントで少しトラブルが…」 金色に輝く名札を付けた…正に円香の好みド真ん中をグリグリグリグリしちゃいそうな男が、にこやかに立礼する。 「もう大丈夫なんですかぁ?」 「ええ。申し送りでミスが…。当ホテルに不釣り合いなハハッ…謎のジャージで一騒動が」 アタシのジャージだよ! 「よ、上杉」 「どうだ?一乗寺」 お知り合いな訳ね… 「面白ぇ」 「全く…円香さんにご迷惑を」 いや、アタシにだよ 「迷惑だなんてッ!上杉さんの為なら…日本海も飲み干しちゃいますぅ」 「それは…やめましょうね?」 「はぁい!」 『はぁい?じゃないよ…何が…起こってッ…』 分かって…ても言わずにいられない! 「ごめんね上総ぁ!」 再び、物凄い勢いで抱き付かれたアタシの足は、フラリと後退り。 「…知ってるでしょ…あたしが彼にベタ惚れだって…」 コソッと耳打ちされて息を。 『ッあんた…まだ諦めて―』 「ない。あんな一番いい男…」 一番いい男って上杉か! 「彼に頼まれたら…上総に協力要請するしか」 『要請じゃなく反逆ッ』 「頭硬ぁい」 この、女ぁ…
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