第1話―変化―

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スマホからこんな簡単に証拠がつかめたということは、あの依頼人の方がもっと簡単に証拠を掴めたはず。 なのになんでわざわざ依頼なんてしてきたんだ。 ただ無知なだけなのか、浮気を疑ってるとご主人に少しでも悟られないように念のため俺らを頼ってきたのか… それに、事務所に来た時の依頼人に対する違和感の正体も何だったのか気になってきた。 依頼人には、何か別の目的があるんじゃないか。 でもそれが何かはわからない。 「俺の考えすぎか…?」  ■ 「え、もう不倫の証拠掴んだんですか?」 「ああ、一応な。全部とは言い切れないからあとはお前に任せるけど」 「さすが三ツ谷さんですね!すごいです!」 事務所に戻って早々、キラキラした目をしながら俺に近づいてくる馬鹿犬。 職業病ってのは厄介なもんで、親しい間柄であってもつい今日一日何があったかを観察をしながら探ってしまう。 だから直樹に対する疑問が、すぐに出てきた。 近づいてきた拍子に微かに感じたタバコの臭い 今朝とは違うネクタイ わずかに残ってる髪を結った跡 「お前今日変装でもしてたの?」 「えっ」 「図星か。変装しなきゃいけないとこ行ってたのか?」 「な、なんで…」 「何驚いてんだよ。お前タバコ吸わないくせにタバコくせぇし、普段髪なんてしばらねぇくせに前髪上げてた跡が若干残ってるし、今朝は派手なネクタイしてたくせに今はいつもの地味なネクタイ。服装変えてた証拠だろ」 少し固まっていたあと、いつものように直樹はふわりと笑う。 「ほんっと、さすが三ツ谷さんですね。このたった一瞬で見抜いちゃうなんてすごいです!」 「そういうのいいから、で?俺に仕事押し付けて今日は何してたんだよ?」 「奥さんの身辺調査です。何となく、奥さんの方も調べた方がいいんじゃないかなぁと思って。俺顔バレしてるし、一応変装しなきゃと思ってしてたんです」 「は?なんで依頼人の身辺調査?今回の依頼はご主人の浮気の証拠を集める事だろうが」 「だから何となくですよーもう、疑い深いなぁ三ツ谷さんはー」 「何だそれ…」 こんないい加減な理由を怒れないのは、こいつのこの屈託のない笑顔のせいなのか 俺が少なからず、こいつに好意を持っているからなのか… どちらにせよ、こいつの勘は侮れない。 それだけは確かだ。
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