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「あれ、もう依頼済んだんじゃないの?」
デスクに戻った俺は、今回の依頼内容を整理していた。
それを怪訝に思った所長が俺の肩に頭を乗せ覗き込んでくる。
「重いんで頭どけて下さい。まだちょっと気になる事があったんで」
「不倫以外に?」
「ええ、依頼人の件で、ちょっと…」
「何かあったのか?」
「そういえば所長も今回の依頼人の姿見てますよね、おかしいと思いませんでしたか?」
所長は俺から離れ、黙ったまま俺を見る。
何かまずいことを言ってしまったのか、所長の顔は強張っていた。
なんだ…?
「…所長?」
「ぁあ、いや?俺はそこまでちゃんと見てないよー。で?その依頼人がどうしたって?」
「あ、はい…彼女、初めてここに来た時はかなり挙動不審で落ち着きがありませんでした。ですが二度目結果報告の際訪れた時は、その逆で活発になっています。だが顔色は優れない…それに加えて体から発せられる独特なあの臭い。これは、恐らく…」
「薬物中毒者」
俺が言い切る前に、所長が言葉を発した。
「やはり、気づいていたんですね」
「いーや?三ツ谷の話聞いてそう思っただけだよ。言ったでしょ、俺はそこまで依頼人の事見てなかったからねー」
「そ…うですか。えと、それでちょっと今回の依頼なんかまだありそうな気がして。個人的に調査してて…」
おかしい。
なんかがおかしい…
「ふーん、まあ程々にね。まだ他にも三ツ谷抱えてる案件あるっしょ。そっち疎かにすんなよー」
「あ、はい」
そう言い所長は自分のデスクへと戻る。
おかしい。
今回の依頼、全部…なんかおかしい。
さっきの所長の態度。
依頼人の豹変した態度。
簡単すぎた依頼。
直樹の行動。
全部、おかしいことばかりだ。
でもこのときはまだ、調べればいずれわかる事だと安易に考えていた。
この依頼が、この先に起こる事件の発端だと
まだ、俺はわかっていなかった。
第1話ー変化ー END
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