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その青年とはそこで離れ、俺はさっさと店を出る事にした。
まだ心臓がバクバクいってる。
探偵になってそれなりに時間は経つが、ここまで危険な事に首を突っ込んだ事はない。
平静を保ってはいるが、それもそろそろ限界となってきた。
早くここから出て、雄一に連絡しないと。
また店内は少し人が増えたようで、だいぶ狭くなった人と人の隙間を半ば強引に入り出入口へと進む。
「………は?」
だが出入口の扉に手をかける寸前
一瞬だけ見えた見覚えのある人物に手が止まる。
「あいつ…何して…」
その姿を辿っていこうとしたが、気がついたらもうそいつはいなかった。
「今の…絶対ナオだよな…」
■
「あの、三ツ谷さん…」
「え?」
「そんな見つめられると、照れるんですけど…」
「あ、や、わり…」
翌日、出勤していつも通りに事務仕事をこなしながらも
頭の中は昨日の事がどうしてもちらついていた。
そのせいか、どうやら気付かないうちに直樹を凝視していたようだ。
「何か話があるんですか?あ、今日の夜ご飯の事ですか?」
「や……なんでもねぇ」
「?そうですか」
そもそも、あいつがあそこにいたという確証はない。
一瞬見かけただけで、あいつに見えたというだけで。
仮に直樹だったとして、ただ呑みに行ってただけかもしれないわけで。
だが…
「なぁ、ナオ…」
「はい?」
「あ、や…何でもない…」
「もーさっきから何ですかー?今日三ツ谷さん変ですよー?」
俺はやっぱり、こいつの笑顔に弱い…。
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