第1章

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このままでは焼きリンゴならぬ、焼きパインになってしまう。 このままでは顔面中央だけが、松崎しげ◯みたいになってしまう。 とにかくこの顔面集中ファイヤーカーニバルを何とかしなくては・・!! そう考え、顔を両手の平で覆って露出部分を無くそうと試みる。 最早その見た目は完全に 「イヤだ、恥ずかしい!!」 と恋に恥じらう乙女のものであったが、そんな事は言っていられない。 吹き荒れる熱波を何とかやり過ごし、背後に匿っていた子供が無事に逃げおおせた事を確認した俺は、ようやく小山のような巨大トカゲと正面から向き合った。 低い唸り声と共に構えられる三ツ又の銛。 それに呼応するように俺は頼みの綱とも言うべき、鎧の取扱説明書を懐から取り出そうとする。 だがそれを抜き出した瞬間、俺はそのあまりの軽さに気が付いた。 鎧は特別でも紙は別。 背表紙のみを残し、ハラハラと風に舞う黒き粉雪。 嗚呼、我がトリセツは、花と散るらむ。 吐き出された炎によって塵と消えた説明書を持ったまま、呆然と立ち尽くしていた俺は、突如目の前に現れた尖撃を寸での所で回避した。 露出部分の防御力がペラッペラなのは、有り難くない事に先の炎で立証済みだ。 あんな一撃を食らったら、それこそ顔面が穴開きパインの缶詰みたいになってしまう。 しかし鎧はあれども、戦える武器を何一つ所持していない事に今更ながら気付いた俺は、慌てて《ヤツ》を呼び出した。 「尻!!ヘイ尻!ヘイヘイヘイヘイ尻尻尻尻!!!!」 変態と紙一重のコメントを連発する俺に、 「・・御用は何ですか」 と、こんな時でも冷静な、しかし若干舌打ち交じりの声が届く。 俺の手にはもう取説は存在しない。 だから機能に応じた指示コードを、明確に発信する事は出来ない。 だが俺はこの鎧と、尻という存在が持つ思考の柔軟さに望みをかけた。 「頼む、尻!リザードマンの倒し方を教えてくれ!!」 余りにも漠然とした指示。 だが目の前の敵は再び炎を吐き出す態勢に入っている。 さっきは辛うじて凌げたが、今度も上手くいくとは限らない。 焦りに焦る俺の鼓膜を、とてつもなく冷静な声が打ったのはその時だった。 「・・リザードゥマンの間違いではありませんか?」 「イヤだこの子、融通きかない!!」
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