第1章

2/11
19人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
「(・・どうしてこうなったんだ)」 まだ陽は沈みきっていないにも関わらず、ほぼ満席状態な酒場の片隅で、俺は盛大なため息を吐いた。 《アサヒ・スーパーデュラァーイ亭》。 そう名付けられたこの酒場には、普段ならば場所柄特有の陽気な喧騒が満ち溢れているに違いない。 だが今は違う。 決して狭くはない店内に、意味ありげなざわめきが広がる。 そこに存在する全ての人間が、俺に視線を集中させているのを感じる。 その視線に含まれている感情は、この世の終わりのようなため息を漏らす男に対しての同情や憐れみなどでは決してなく、純度100%の不審と好奇。 それを向けられる原因に、心当たりがない事もない。 いや、心当たりは間違いなくある。 いやいや、心当たりだらけと言っても過言ではない。 赤ら顔の客達の視線は総じて、俺自身と言うよりは、俺が身に纏っている全身鎧(フルアーマー)に注がれているからだ。 もっとも、この魔物達が跋扈する世界において、全身鎧という出で立ち自体は決して珍しいものではない。 にもかかわらず俺が。 否、俺の鎧が人々の視線を独り占めにする理由。それはーー 「あぁもう・・どうなってんだよ、コレ・・」 無意識の内に頭を抱えようとすると、ヒヤリと両掌に触れる金属の感触。 そこから頭頂部に向かって指を伸ばせば、ゴツリと扇状に行く手を遮る剣山のような突起物。 露出している顔面部分以外を全て覆い尽くす、何かの果皮のような意匠。 そしてそれら全てが放出する、ハデハデしい黄金の輝きに包まれた俺の姿は紛れもなく・・ とある辺鄙な町の酒場に降臨した、一個の人型パイナップルだったのだ。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!