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「なんっっでやねんッッ!!」
鎧と俺、仲睦まじきダブルぱいなぽぅ。
お笑いの聖地出身でなくとも、そうツッコまざるを得ないこの展開。
呪いか。
これが呪いというものなのか。
職業に関しては百歩譲るとしても、
「ああ、君の名前も今日から《ぱいなぽぅ》だからね?だってもう、見た目からしてアレじゃない。プスッ(←失笑)」
とでも言いたげな雰囲気すら漂う強制改名。
全国で一番多い名字から、間違いなく全国で一番少ない(っていうかあったら怖い)名前に転落した俺は、苛立ちのあまり頭を掻きむしった。
否、掻きむしろうとしたら、光輝くパイン兜の表面が
《ケシケシケシケシケシケシ》
と情けない音を立てた。
「(・・とにかく、こうしていても始まらない)」
頭を一つ振って考えを改め、俺はテーブルの上にワールドマップを広げる。
この地図を見る限り、旅の最終目的地と思しき《魔王の居城》と直球で記されたポイントは、ここから遥か遠く離れた最果ての孤島にあるらしい。
向かうなら船か・・それともファンタジック路線で行くなら、龍に乗って飛んでいくとか。
頭の中に、猛々しいドラゴンの背に乗り、悪の巣窟を目指す自分の姿が描き出される。
普通ならば最後の戦いに赴く、クライマックスシーンというヤツだろう。
だが実際は、陽の光を全身で反射し、
「ご来光でござる」
と言わんばかりに天空を飛翔する俺、即ちぱいなぽぅ。
・・シュールだ。
・・・シュールすぎる。
未だ嘗て、こんな自己顕示欲の塊のような勇者が存在しただろうか。
俺の中にある勇者像とはあまりにもかけ離れた妄想に囚われ、再び頭を抱えそうになった俺に、おずおずと声が掛けられたのはその時だった。
「・・あのぅ・・ご注文は・・」
「・・・あ」
忘れていた。
飲食が出来る店に来て、何も注文する事なく居座り続けているのは確かに迷惑だろう。
この世界での相場がわからないが、この鎧と共に得た金貨があれば飲食代としては充分のはずだ。
・・でも。
「す、スイマセン、あの・・俺、すぐに出ますから」
「・・え?」
呆気に取られた様子の女性を尻目に、俺はそそくさと荷物をまとめる。
そしてペコリと頭を一つ下げると、何となくいたたまれない気持ちを抱えながら、逃げるように酒場を飛び出した。
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