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シンと澄み渡る夜気の中。
無駄に神々しき輝きを放つファラオのように大地に横たわっていた俺は、微かに流れてくる人の声で目を覚ました。
「・・げろ!!」
「・・メだ・・!!」
どこか緊迫した様子に思わず立ち上がり、声のする方に向かっていくと、50代くらいの男性二人と出くわした。
「な、何かあったんですか?」
いきなり
「あいや待たれい、そこの人」
と言わんばかりに飛び出してきた俺の姿を見て、二人は一様に
「(Oh・・)」
という形に口を丸めたが、こんな自己主張の強すぎる山賊などいるわけがないと判断したのか、事のあらましを教えてくれた。
自分達はこの辺りをたまたま通りかかった行商人だが、立ち寄ろうと思っていた町が魔物に襲われていたので慌ててここまで逃げてきた。
お前がどこ産のパイナップルかは知らないが、早く逃げた方が良いぞ。
そんな事を言い置いて足早に立ち去った背中を見送った俺は、男達が指し示した方向に呆然と視線を移した。
男達の言った《町》とは、夕方まで俺がいたあの町に違いない。
思い出と呼べるものは無いに等しいけれど、ほんの僅かでも縁を結んだあの場所が今、襲撃を受けているという。
「お前も早く逃げた方が良いぞ」
ついさっき聞いたばかりの男の声が甦る。
確かにこの世界に来て間もない、そして戦いの経験など全くない俺なんかに出来ることは何一つない。
肩書きは勇者かもしれないけど、呪われてるし。
レベル1だし。
パインだし。
きっとあの男達の言葉に素直に従う方が、賢明な選択に違いない。
・・・でも。
ほとんど言葉を交わした訳ではないが、酒場で会った人々の顔が頭をよぎる。
魔物の襲撃というものがこの世界においてどれほどの脅威かはわからないが、少なくともあの町に住む平穏な生活が脅かされようとしている事は間違いない。
こんな俺が駆けつけても、役に立たないどころか却って混乱を招くかもしれない。
それでも何もせず、このまま立ち去ってしまう事はどうにも出来なかった。
揺らぐ心に活を入れるように額を一つ殴り付け、俺は顔を上げる。
自分が選んだ道が正しかったかどうかなんて、未来を覗いてみなければわからない。
だからこそ今の自分が正しいと感じる方角へ向かって、俺は闇深き森の中を全力で走り始めた。
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