第1章

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 ボクらには手が出せない値段だったが、店の一角にはモデルガンも売っていた。男の子はピストルやライフルに憧れる。ルパン三世愛用のワルサーP38、漫画『ドーベルマン刑事』加納刑事といえばブラックホーク44マグナム、アメリカの白バイ隊員が持つパイソン357マグナム、ベレッタオートマチック、S&W44マグナム、ゴルゴ13のM16等など、皆カッコよかった。  ある日、いつものように放課後校庭で遊んでいると、情報がもたらされた。 「ダウンタウンブギウギバンドがドブ板に来てるぞ」  ドブ板通りに住むクラスメートが言い回っていた。遊びを止め、ボクらはランドセルを急いで担ぎ、ドブ板通りへ向かった。正門を出て、八の字に別れた右手の階段を下り、京急線のガードをくぐり、ちょっと歩けばもうそこはドブ板通り入口。広くないドブ板通りを五分も捜せば、すぐお目当ては見つかる。あっけなく彼らを見つけた。  昭和五十年『港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ』が大ヒットして脚光を浴び、その長ったらしいバンド名と宇崎竜童の名は、ボクらにも知れ渡っていた。クラスメートのヨウコという名の女子は皆必ず、港のヨーコと呼ばれたり、〝アンタあの子のなんなのさ〟と、からかわれていた。伝説の歌手となった山口百恵が、クラスでは地元出身としてやっぱり絶大な人気を誇っていた(ある時期、本人は裕福でなかったヨコスカ時代のことをあまり話たがらないと何かで聞いたことがある)。宇崎竜童作曲『横須賀ストーリー』が大ヒットするのは、この一年後のことだった。   ダウンタウンブギウギバンドは、ドブ板通りと平行に走る、国道十六号の正面ゲート前の横断歩道で信号待ちをしていた。横断歩道を渡り、基地側の幅広い歩道を臨海公園に向かって歩いて行く。米軍基地正面ゲートから臨海公園の間には、戦前からある大きなガントリークレーンで有名な造船所と、靴下工場があって、その前の幅広い歩道には金網で仕切られた向こうに、線路が国鉄の横須賀駅まで延びていた。これは、戦時中、横須賀駅から横須賀海軍工廠(現在の米軍基地)内への専用引き込み線路の跡地で、この頃もう電車は走っていなかった(ボクはここをごくたまに電車が走っているのを見た記憶があるのが・・・)。  ダウンタウンブギウギバンドはテレビのロケでやって来ていて、その線路を背景に歩きながら撮影していた。  
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