第1章

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 彼らの後を、金魚の糞のようについていくボクらヤジ馬達。再びドブ板通りへ戻ろうとEMクラブ前の横断歩道で信号待ちになる。撮影は一旦ストップ。その隙を見てサインをねだる。ボクらは学習ノートを差し出すが、少し遅れてきたちゃかり者は、ここに来る前、学校前にある文房具屋で買ってきた色紙を差し出している。でも宇崎さんは、色紙も学習ノートも差別しないでサインをくれた。さすがプロだ。ボクらみたいな悪ガキ共に囲まれて大変だろうな。  横断歩道を渡り、再びドブ板通りに戻ったダウンタウンブギウギバンドは、家具屋の隣にあったライブハウスへ行き、中で収録を始めた。中へ入れないので、ボクらはそこで解散となったが、そのライブハウスは、映画に出てくるようなアメリカンバー風な店内で、知る人ぞ知る結構有名な場所だった。そこに出演していたミュージシャンは、白竜、ジョー山中、柳ジョージといった、そうそうたるメンバーで、今でこそ彼らの音楽を聴いたりはするが、当時小学生のガキには早すぎた。もう少し早く生まれていたら、本場のアメリカンな雰囲気で、彼らの生ライブを体験できたのに。もったいない。  それから二十年後、ボクは赤坂のテレビ局へ出向して、映画の宣伝の仕事をしていた。ある日の仕事終わり、局のプロデューサーに誘われ、一ツ木通りにある宇崎さんのお店に連れて行ってもらった。なんでもプロデューサーは、宇崎さんと親しく親交があるとかで、よくお店にお酒を飲みに来ているという。しばらくすると宇崎さんがやって来た。束の間だったが、ボクは宇崎さんと一緒にお酒を飲んだ。宇崎さんはカッコよかった。あの小学生時代の話は、緊張もあってか、すっかりボク頭の中からトンでいた。その時は言えなかったので謝ります。 「宇崎さん、ダウンタウンブギウギバンド皆さん、あの時はノートなんかにサインねだったりしてごめんなさい」。  ドブ板通りの名物(ボクだけがそう思っているのかもしれないが)で大好きな食べ物があった。〝スティックドッグ〟、所謂アメリカンドッグと呼ばれる物だ。小学生の頃は数軒の店先で売っていたが、今も昔ながらの形態で売っている店は、一軒のみになってしまった。値段は当時でも百円とか百五十円はしていた。ボクらにとっては舶来の結構高級な代物だった。味もソーセージもころもも、コンビニで売っている今時のと違っていた。
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