第1章

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 その何日か前、何気なしに教室で会話していた時のこと、親友のトシちゃんが言った。 「今度の日曜ベース開き行かねぇ?モッくん来年私立行っちゃうから、もう一緒に行けないかもしれないじゃん」  男子五人で話が決まりかけた時、エッちゃんが話に割り込んで来た。 「日曜男子もベース開き行くの?私達も行くんだ。一緒に行こうよ」  傍にいたボクは直接誘われた訳ではないけど、心臓はドキドキ、破裂寸前だった。後で知ることになるが、エッちゃんの親友マリコがモッくんのことが好きで、気を利かしたエッちゃんの計画であった。でもそんなことは関係ない、グループ交際でも何でも、ボクはエッちゃんと一緒に遊べることだけで幸せだった。  ベース開き当日、開門時間に基地正面ゲート前でエッちゃん達と待ち合わせ、入場した。ホットドッグ、コーラ、アトラクション、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。夕日が傾き始めた頃、試合の終わった人気のない野球場で、マリコは皆とは別の中学へ進学するモッくんに、思いを打ち明けていた。  帰り道、ドブ板通りを彼女達と一緒に歩いた。一人一人皆、心に秘めた想いが、忘れられない青春の一ページに刻まれた。  就職して都内に通勤していた頃、いろんな人からよく言われたことがある。 「ヨコスカの奴って、ほんと地元が好きだよな。 よくそんな遠い所から通うね」 とか 「ヨコスカの人って、地元から離れないよね」等、その頃は自分では全く意識していなかったが、心の奥にはお国自慢の妙なプライド意識が眠っていて、知らない所でアピールしていたのかもしれない。ヨコスカ出身者には、ヨコスカ人気質みたいな特徴があって、その持ち主はボクだけではなかったのだろう。今ボクは、いい街に生まれ育ったと実感している。  時は経ち、この街は変貌を遂げてきた。新しくなって便利になったことも数多く、また暮らしやすい街にもなった。明るく綺麗になったドブ板通り。スティックドッグから海軍カレーやネイビーバーガーに名物料理は替わり、ドブ板通りは横須賀一の観光地になった。  しかし変わらぬことで魅了し続けていることもある。ヒット曲の舞台になった坂道から見える海。トンネルとトンネルの間を走り抜けていく赤い電車。甘くてホロ苦い想い出達。  これから何があろうと、ボクはこの街と歩んでいくだろう。
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