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交番の中には誰も見当たらなかった。誰かいませんか、と叫んだので中年の巡査が出てきた。僕の顔見知りである小橋さん。ちびっ子たちに『スキンヘッド』と呼ばれている。彼らははじめ小橋さんを『ハゲ』と呼んでいたのだが小橋さんはそれなら『スキンヘッド』がいいと笑いながら言い、そう呼ばせることに成功した。確かに僕も『ハゲ』よりは『スキンヘッド』のほうがましな気はするけど・・・。とにかくそういうくそがきを怒鳴るのではなく笑って許す小橋さんは立派だと僕は思う。
その小橋さんがいつものように苦笑いしながら言った。
「依頼?」
「はい。すいません。忙しいのに。」
「いやぁ。これが仕事だし。」
僕たちはあはははと笑った。
・・・笑ってる場合じゃない。
小橋さんは困った顔をする。
「でもいつものことでしょう。」
「はい。でも横須賀のほうまで探したのにいないんです。」
「・・・警察の協力なしに横須賀まで?」
「慣れてますから。」
僕たちはまたあはははと笑う。
・・・だから笑ってる場合じゃないんだって。
「とにかくいないんです。」
「でもさ、アレつけてるんでしょうアレ。・・・なんだっけ。あれだよアレ。」
僕は小橋さんの探してる言葉の答えを言ってあげた。納得した顔になる小橋さん。何度も教えているはずなのにいまだに覚えようとしない。
「じゃあそのうち、連絡が来るでしょう。」
「・・・そうですね。ご迷惑おかけしてすいません。」
「だから僕は何もしてないって。」
交番を出てから僕はため息をついた。
確かにいずれ連絡は来ると思う。でもその時生きてなかったらどうするんだ。もうあいつと会えなかったら。
そんなことはあいつがいなくなるたびに思った。だけどいつもいつも必ず戻ってきた。
そのいつもより今回はいない時間が長すぎる。
・・・・・・・・・。
不安は大きくなるばかりだった。
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