第2章

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 京急線も横浜を過ぎた。横浜を見るのは初めてだけど疲れていた私は車窓の外を見ることもせず、ただぼんやりと座っていた。  柴犬はまだ私の足元にいる。さっきまで居心地が悪かったけど、よく考えれば注意されたときに自分の犬じゃないと言えばいいののだ。電車の外まではついてこないだろう。・・・そう考えたい。  そんなことを考える自分がいやだった。私はいつも都合が悪いことから目をそむけてる。  これからは京急線で羽田空港まで行く予定だ。そこから飛行機で北海道のおばさんの家に行くつもりだ。親にもお兄ちゃんにも友だちにも言ってない。おばさんはお母さんと仲が悪いので、お世話になりたいと言ったら快く引き受けてくれた。  事実上の家出だった。  私の家はお母さんもお父さんもそのまたお母さんもお父さんも医者だった。お兄ちゃんも2年前に東大の医学部に入学した。当然私も医者になることを小さいころから期待され、たくさん勉強してきた。それはしっかりと実を結び、この春県内一偏差値の高い高校に余裕で入学できた。  そして同じクラスにとんでもない男子がいた。  どんな男子かというとほめ言葉しか見つからないような男子だった。まず高校の中でもずば抜けて成績がいい。勉強は大好きですといった雰囲気をのぞかせている。趣味は数学の問題をひたすら解くこととプログラミングです、あとスポーツも好きなので剣道ですね、だそうだ。唖然とした。  また、そんな自分を鼻にかけることもなく、やさしくイケメンで物静か。当然女子にはもて、男子に慕われ、先生のお気に入り。  そんな奴がこの世にいることくらいは知っていた。私だってそこまでできてはいないけど少しは文武両道女子では入れているとは思う。それでもなぜだかとてもショックだった。  人には限界というものがある。そいつと会ったとき、私の限界という名のコップから水があふれてしまったらしい。私のコップはもっと大きいと思っていた。というより、私のコップは無限大だと思っていた。  コップから水があふれるともうどうしようもなくなった。もう何もできなかった。きっと私に次のコップは用意されていない。  家出くらいいいじゃん。第一行く先は決まっているのだ。おばさんには迷惑をかけちゃうけど、恩はいくらでも返せる。北海道で農業なんてのもいいかもしれない。  本当に、本当に、泣きそうだ。
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