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ぼくを殺したのはボクだと僕が言った
目の前には、ぼくの死体。
それを茫然と見下ろすぼく。
その横に悠然と立つ僕が言う。
「これは君の仕業かね?」
「と、とんでもない! 目を醒ましたら、ぼくの死体があったんだ」
自分にあらぬ疑いをもたれて、ぼくは慌てて否定した。
「ふむ。僕でもないとすると、別の容疑者が存在することになるな」
「別の容疑者……? まだ他に人がいると言うの!?」
「殺人者なくして他殺体は存在せず。それが当然の帰結だな」
冷静沈着に答える僕を見て、情けないことに頼れる存在だと思った。
「それにしても……いったい誰が殺したんだろう」
ぼくは目の前の死体──砂浜にうつぶせに転がる、矢の刺さったぼくの死体を見てつぶやいた。
──ここは無人島。
正確に言えば、ぼくが遭難して辿り着くまでは誰もいない島だったはずだ。
チャーターしたオンボロ飛行機が墜落して、九死に一生を得てなんとか島に流れ着いた。
波打ち際で目を醒ましたぼくは、目の前にぼくと同じ顔をした死体を発見したのだ。
しかも、それをつぶさに観察するぼくと同じ顔をした僕を見た。
誰かに殺された死体のぼく。
それを発見したぼく。
それを眺める僕。
この時点で、ぼくと同じ存在が3人いることになる。
──でも、なぜなんだ!?
「なぜ自分と同じ存在がいるのか、それを疑問に思っているね」
僕が言った。
さすがは自分だ。考えていることが一緒である。
「飛行機事故で投げ出されたショックで、おそらくは複数の同一存在に分身したのであろう」
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