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「ごめん、駅まで送ってって!」
俺にはどうしても勝てない相手がいる。
「えー……、自転車でいけばいいじゃん」
「だって雨降ってるんだもん」
身体の動きに合わせて揺れる長い黒髪。俺を見上げる褐色の大きな瞳。不満げに尖らせられたさくら色の小さな唇。
「なら歩いてけば?」
「遠いもん。荷物結構重いし。だからお願いっ!」
小柄な背丈に華奢な肩。
頼みを断りきれない俺は今日も渋々うなずく。
「わかったよ、仕方ないなぁ」
「ありがとっ、しずくん!」
本当に俺は姉に甘い。
姉は俺の四つ年上だ。小さい頃から両親が共働きだったせいで、俺は姉に育てられたも同然だった。
俺が十二歳、姉が十六歳の時母が事故で亡くなり、それ以来、姉は部活を辞めて家事をこなすようになった。
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