鏡の向こう

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鏡の向こう

 仕事の待ち合わせで会社近くの喫茶店に入った。  入るなり、外観とは裏腹な店内の広さに仰天する。でもすぐに、その広さは偽物だと判った。  広く見せたい設計らしく、店の至る所が鏡張りだったのだ。  自分がそこかしこに映っているなんて落ち着かない。最初はそう思ったが、さすがにそういった配慮はされているらしく、鏡のことはすぐに気にならなくなった。  程なく現れた相手と打ち合わせに入る。  思っていたよりあっさりと話はまとまり、相手は次の仕事があるからと、早々に店を出て行った。  さて、俺はどうしようか。  すぐ社に戻ってもいいが、そろそろ正午だから部署は休憩時間に入る。だったらいっそ、ここで昼食を済ませて行くとしよう。  来た時にはろくに見なかったメニューを広げ、好みの品を注文した。  食事が運ばれて来るまではメールチェックでもしていようか。  そう思った俺の脇を、トレイに注文品を乗せたウエイトレスが過ぎ抜けた。  俺が頼んだのと同じ品だ。結構早いなと思って待っていたら、鏡に映るウエイトレスは俺の後ろの席にその品を置いた。  どうやら前後で同じ品を注文したらしい。  メニューは写真付きだったが、やはり現物は、量とか盛り付けの具合とかの都合上気になるものだ。  幸いにも前に鏡があるので、背後を振り返らなくても料理を窺うことくらいはできる。  成る程。ああいう感じなのか。  人の食事をじろじろ見るのはよくないので、それきり俺は視線を他に移した。でも真後ろの席だ、食事の気配はそれとなく伝わる。  いい匂いだ。味もいいのかな。…腹減った。  背後の食事に空腹感を刺激される。だが、待てど暮らせど俺の注文した品は来ない。
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