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「さや・・・。いや、ささ・・・。」
まるで鏡を見ているかのように自分にそっくりな兄の頬を撫でる。やはり自分と同じ体温。血だって流れている。兄は生きている。生きている、はずなんだ。それなのに、兄は機械につながれ、病院の一室にいる。窓からはきっと兄も通うはずだった翠璃が丘高校が小さく見える。
「今日、入学式があったんだ。制服が届いたばかりのときと、今朝の2回しか袖を通していないからかな、違和感がするんだよね。似合ってるかな?」
わざとおどけてくるくる回ってみる。兄も笑ってくれている、のだろうか。少しだけ、口元が綻んだみたいに見えた。
実際はそんなことないって分かってる。頭では理解してる。けれど、今にもその目を開けて、しばらく黙ったままで、その後に笑顔でおはようって間抜けな口調で言ってくれる気がするんだ。前も眠ってばかりだったけど、今回は寝すぎだよって怒らないといけないんだ。
「ささ・・・早く・・・・・・起きてよ。怒られるのが嫌なら、もう怒らないから。だから、早く笑ってよ。そばにいてよ・・・。」
一定の心拍数。かすかに聞こえる呼吸音。高級な機械でしか分からない兄よりも、ただ一言話してくれるだけで僕は泣いて喜ぶよ。それぐらい嬉しいのに。
「ねえ、ささ。僕のことを恨んでよ。憎んでよ。僕を殴って、お前のせいで自分の人生が台無しになったって、責めてよ。僕のせいで、ささが、こんな風になったんだから・・・。」
そう、あの時に僕が、ささを殺した。僕のせいでささの未来は途絶えてしまった。
「ささーーーーっ!!!」
僕の悲鳴と、タイヤが道路に擦れる不快音と、友達やそのお母さん達の悲鳴。思わず耳を塞ぎたくなる騒動だった。
「ささっ、ささっ、あっ、う、ささー!!!」
僕と同じ顔は同じじゃなくなって、クレヨンの赤よりも紅く、ささの周りは染まっていた。ぴくぴく動いていたささの手を必死に握ろうとした。ささが、どこかへ行ってしまう気がして。けれど引き離され、ささとようやく面会できたのはその日の夜遅く、病院でだった。
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