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「ささ・・・?ぼくだよ、ややだよ?・・・・・・お母さん、なんで、ささは・・・。」
答えてくれないの、と聞こうとしたところで、いつも笑っているお母さんは膝から崩れ落ちた。さや、さや、と言いながら肩を震わせ、床にはいくつもの水滴が落ちた。ああ、つまり、ささは・・・・・・。
「ささ、ささ、戻ってきてよ・・・。ごめんなさい・・・。」
ささはどこかへ行ってしまった。体はここにいるけれど、ささは遠い遠い手の届かない場所へ行ってしまったんだ。あの時、ぼくの背中を押したから。ぼくの代わりに、なったから・・・。
「うっ、あ、ささあ・・・。ごめ、ひっ、なさいい・・・・・・。」
その時泣いていないのは、きっと一番痛くてつらかったはずのささだけだった。
「ささ・・・。」
轢いた人を恨む気持ちを抱いてはいけない。あのときに自分が車道に飛び出したばかりに、さやは・・・。僕は、身代わりになったささへの悔いる気持ちのみを抱いていくしかない。成長するにつれて理解した気持ちはもう捨てなくてはならないのに・・・。
「ささ・・・。・・・・・・好きだよ・・・。」
これは家族に対する気持ちなんだ。決して、恋とか愛とかそういうものではない。そう言い聞かせ続け何年経っただろうか。
「いつか、僕のそばにいてくれる・・・?」
透き通るような白い肌。折れそうなくらいに華奢な体躯。僕であって僕じゃない、片割れ。年月が経つ度にこの気持ちは大きくなって・・・、いつだっただろうか、女の子に告白される時にささを思い浮かべるようになったのは。
「いてもらう・・・資格なんて、ないよね・・・・・・。」
全部ぜんぶ分かっている。実の兄に抱くべき感情ではないこと、ささに受け入れられるわけがないこと、自分はささの未来を潰してしまったこと。
「もし・・・あのとき僕が・・・・・・。」
それ以上は言えない。ささに対する最大の侮辱だから。ささを否定してしまうから。だけど、だけど・・・。
もし、僕が轢かれていたらどんな未来が訪れたのだろう・・・。
たらればでしかないが、きっとささに幸せが訪れる未来であったことを願うばかりだ。
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