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「よっし着いたぁ! ほら、見ろよハルナ!」
「はぁ、はぁ……、テ、テル足早いってばぁ」
「あぁ、ごめんごめん。でもこっからの眺めを見せたくって」
「ここっていつも遊んでるとこ、ろ……わぁ」
「面白いだろ、雪が降ってるのに山の向こうは夕焼けだぜ」
「きれい……町も、田んぼも、川もみんなオレンジ色になってる」
「お前もオレンジ色になってるぞ」
「テルだってほっぺた赤いよ」
「えっ、あっ、寒いからな!」
「知らなかった。私たちの町がこんなにきれいだったなんて……テル、ありがと」
「へへへ、どうも。けどハルナとこうして遊ぶ時間も、中学生になったら減っちゃうのかな」
「……うん」
「あっ、でもよ! 寂しかったらいつでも言えよな! お、オレが絶対に守るから!」
「…………」
「ハルナが泣いてる顔は見たくないからな! お、お前は笑ってろ! えとその、あぁ……」
「テル?」
「ふぅ……ハルナ。オレ、お前のことが──」
「テル。私ね、引っ越すの」
「……え?」
「お家の都合で四月から福岡で暮らすことになったの」
「そ、それって」
「急な話で本当にごめんね」
「そんな、東京から福岡って、遠すぎだろ……」
「……ごめんなさい、テルはいつもからかわれてた私を助けてくれたのに……」
「うぅん、ハルナは悪くない!」
「でも……ぐす……」
「おい泣くなハルナ! お前は笑ってた方が良いって言ったろ! オレも笑うからお前も笑えよ! ほら、ハッハハハ!」
「けどテルはそれだと」
「バカ、オレのことは心配すんな。ほら、せっかくのカドデだ、祝ってやるよ。ハッハッハッハ、めでたいなぁ、めでたいなぁ! ハハハ……め”て”た”い”な”ぁ”!」
「……あのね、テル。私ね、夢があるの」
「ハハ……ゆめ? 何になるんだ?」
「舞台の女優さん。いっぱい歌って、いっぱい踊って、たくさんの人を笑顔にしたい」
「笑顔……かっこいいじゃん!」
「ありがとう、テル!」
「じゃあさ、何か歌ってくれないか? 未来のスターさん」
「もちろん、いいよ!」
「おぉっ、女優ハルナの誕生だ! こりゃ、めでたいなぁ!」
丘の上から少女の歌が風に乗る。なごり雪が降る中で落ちた滴に気付くには、あの日の俺はまだ幼すぎた。
小さな町が白むどこかで、一羽のうぐいすが鳴いていた。
***
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