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「レディーが出合い頭に人のおつむを叩くか、普通?」
「うるさいっ! 待たせる方が悪いったい!」
「あぁ、悪かった。しかし、待たせたと言っても数分程度で」
「数分じゃない、二十五分よ! 正確には二十五分二十五秒!」
「おぉ、ニコニコで揃ってる。だからお前もニコニコォ~って……」
「なるかっ!」
再び頬がふくらんだ。形のいい眉の端が吊り上がり、しかめっ面の迫力を勢いづけている。身長差に大差が無いゆえ鼻先で凄まれると、流石にのけぞるしかない。
が。
一分前とギャップがありすぎて恐いというよりは、なんか面白い。……待たせた身分で言える事ではないけども。
「それに」──追撃しようとする口をあわてて手で制した。
「ストップ。声のボリュームを落とせ」
「声ぇ?」
俺の目のやり場に沿って、彼女の目が左右に動く。
視界に映っているのは、さっきまで上品だった顔立ち(超ドアップ)と、変なものを見る目でこちらに向いてるザ・春の通行人たち。
俺と目が合ったとたんに顔をそらされるのは割とクるものがあった。
たぶん、この自称レディーにも同じ光景が見えただろう。彼女のふくらんでいた頬は急速にしぼんでいき、気まずそうな表情が代わりに浮かんだ。
俺は近すぎる顔から一歩引いて、
「状況把握、オーケー?」
「……オーケー」
彼女の親指が弱々しく立つのに苦笑した。
彼女は姿勢をしゃんと直して、咳ばらいをひとつ。
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