第1章

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見続けるテレビの画面には、最初に乗車待ちの帰省客に掴みかかりその肉を食い千切っている男女の後ろから、同じように青白い顔をして、首筋や肩や腕の肉を大きく食い千切られていたり、上半身の肉が殆ど無くなり腸を引きずっていたりして、血達磨の老若男女が数人降り立ち、腕を前方に突き出し覚束ない足取りで、逃げ惑う人達の方へ歩を進める。 見続けていた画面が突然切り替わり、このまま暫くお待ちくださいのテロップが映しだされた。 そのテロップを見て我に返った俺の耳に、窓の外からパトカーや救急車それに消防車のサイレン、人の悲鳴と警官が発砲しているらしい銃声が聞こえて来る。 握っていた箸を卓袱台の上に放り出し、ベランダに出て、20階建てのマンションの中程にある部屋から、街の中を見下ろした。 直ぐ下の方から、男性の悲鳴とも怒号ともつかない声が聞こえて来たのでそちらを見る、数階斜め下のベランダの手すりに背中をつけた男性が見え、彼に覆い被さるようにしている青白い顔の女性と共に転落。 下のコンクリートに頭を打ちつけピクリとも動かない男性に、一緒に落ちた女性が何事も無かったように歩み寄り、その身体に喰らいつく。 悲鳴を上げ走って逃げ惑う人達に、テレビの画面に映っていたのと同じような覚束ない足取りの男女が、掴みかかり押し倒しその身体に歯をたてる。 眼下を見ていた目を徐々に上げ、ある所で目を止めた。 目に映ったのは、向かいの低層マンションの通路で、白い毛を血達磨にして貪り喰われている猫である。 貪り食っているのは、何時もその猫を抱きかかえ散歩に連れて行く、綺麗なお姉さんだった。 猫を貪り食うお姉さんから目を離し、遠くの方を見渡す。 火事が起きているのか、街の数カ所から真っ黒い煙が上がっていた。
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