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「はーい、ちょっとお持ち下さーい」
と言うと、沙里が
「ワタシ行こっか?!」
と、スタスタと向かっていく。こういうのは、珍しい事じゃなかった。呼んだのはインド人風の男女二人組だった。沙里に
「ご注文は?」
と、聞かれ、慣れない日本語で
「ベジタブルカレー2つ、お願いします」
と、言っている。沙里は指でOK印を作って、
「サンキュー!」
などと調子を合わせ、そして、俺に向かって
「べジ、ツー」
と、指二本を立てている。テーブル席の男性客はにこにこしていて
「素敵なおじょーさまですねー」
と、おかしなイントネーションで沙里に話しかけている。おそらく、この先の日本語学校の生徒だろう。習いたての日本語を話したそうだ。沙里は
「イエスイエース」
なんて、答えている。日本語で話し掛けて来たんだから、日本語で答えてやれよ、なんて思っているとさらに、会話が続く。
「お嬢ー様は、おいくつですかー?」
「わたし?えーと、ぴちぴちの十八歳でえーす!!」
「わお!!」
はははは、と、笑いの渦が店に広がる。
俺は聞いていて、もう少しで吹き出しそうになった。サバ読んだんな。まったく!調子いいヤツ。それでも、誰を相手にしても、物おじしない、奴のコミュニケーション能力はちょっとは見習うべきところがあるかも。人を怖がる、そういう様子はみじんもない。と思っていると、カウンターでカレーを頬張っていた越後屋のおやじさんが、
「ああいう人なつこい娘は商売向きだよなあ。なかなかいねえぞ、あんな娘。嫁にもらっちまえ、耕太郎よ」
などとほざいてくれるじゃん。冗談じゃない。とは思いつつ、そこは常連さんのつぶやき、るせ―なーと不満はあるものの、本音は言わず、作り笑いで心を静める。
「そーだよねー、こんないい娘は今時ねー」
と、聞いていたお袋が答えている。越後屋のおやじさんが
「耕太郎のところに、嫁に来るか?」
と、沙里に直接聞いたりしている。沙里はにっこり笑って
「うーん、いいかも。ワタシ、カレー、大好きだからお腹いっぱい食べられるんだったら、もー、ちょーし・あ・わ・せ!」
と、同調している。
「あくまで、“カレー”のことが好きな訳だよね…」
と、俺がつぶやく。調子に乗ったおやじさんが
「耕太郎のことは?ちったあ、好きか?だめ?こいつじゃ」
としつこく沙里に聞く。
「いいわよ、お嫁さんになってあげても」
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