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「面白くない!帰る!」
と言って、素早く振り返って、ドアを開ける。
「あああ!おい、まずった?」
と、山下がちょっと焦りながら言う。
「やだ、山下くん、泣かしちゃったんじゃないの?」
「追いかけろよ、耕太郎。雨降ってるし、寒いし、かわいそうだよ」
「そうよ。行ってあげなさいよ」
と、高木さんまでも俺の背中を押す。
俺は渋々、外に出る。確かに雨は降っていたが、奴の家は二軒向こうなんだから、濡れるほどでもないだろが…と、思ったが、なんだ、反対方向に走って行くじゃないか。どこ行くんだよ。もう、めんどくせえ奴。傘を差して、小走りに追いかける。美容院の角を曲がったな、と思い、俺も曲がろうとしたら。
「うわ!なんだよ。こんな所に突っ立って…。濡れるよ」
角で沙里とぶつかりそうになる。
「見つけに来てくれたんでしょ」
と、嬉しそうに、ほほ笑む。
「ま、まあな」
「うふふふふ」
「かくれんぼかよ」
「仕方ない、じゃあ、帰ってやるか」
「なんだよ、その言い草」
「いい思いしちゃって。あの、ピンクのセーターの人でしょー!」
と、責める。
「ねえ、もしかして、焼きもち焼いてんの?」
「餅なら、正月に食べたからもういらない」
「くそおもしろくもない」
「あの人のこと好きなの?」
「テストの前に、勉強教えてあげたの。そのお礼だって」
「ふーん、ねえねえ」
沙里は、俺の耳を貸せって、手招きする。俺が、耳を沙里の口元に持って行くと。
「……。やめた。なんでもない」
「なんだよ。拍子抜け。そういう時ってさ、なにか、重大な事とか、秘密の打ち明け話なのかなって、期待するじゃん」
「じゃあ、スキとかって言おうか?」
「もういいよ。冗談だよ!」
「言うよ!」
「あのねえ、沙里。そういうことはなあ。ホントに、ホントに、ホントに好きな奴にだけ、そおっと言うものなんだ。いくら俺がモテて、モテて、モテちゃってもさ。それが悔しいからって、ペラペラ言っちゃ、だめなんだよ。だろ」
「だって、嬉しそうだったもん。コータロー」
「そりゃ、まあ、恋人たちのイベントで、プレゼントっていうのはさ。なんだかんだ言っても…やっぱ、嬉しいさ」
「じゃあ、来年、沙里もするよ」
「おう、待ってるよ」
「多分忘れちゃうと思うけどね」
「なんだよ。なら、言うなよ、もう」
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