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そんな会話を交わしながら、俺は沙里を傘に入れてやり、奴の家まで送って行った。あーあ。店に帰ったら、みんなにやっぱ、なんか言われるんだろうな。
案の定、山下が
「感情、モロだね。一直線に耕太郎!か。いやあ、お前にそういう子がいたとはね。うひひひ。モテる男はつらいねー」
と、言って笑っているし、高木さんも
「一途でかわいい!泣かしちゃだめよー」
なんて言ってくる。おいおい、高木さんにまでそんなこと言われたくない。俺の芽生えるかもしれない恋の進展はどうなるんだよ。だいたい、なんかいい話が来そうになると、なぜかアイツが登場してきて、ややこしくしちゃうんだよね。
ある日のことだった。店を開けるちょっと前の事。沙里がいきなり裏口から飛び込んできた。
「コ―タロー、いるー?大変!キスミ―が、いなくなった。探して!」
と、半泣き状態。キスミ―は、沙里が飼っている子どもの秋田犬で、と言っても、野良犬状態でこの近所をウロウロしているのを沙里が見つけて、飼い出したんだ。首輪が付いていたから、恐らくどこからか逃げて来たんだろう。それなら飼い主はすぐに見つかるだろう、と言うと、それまで、飼いたいと言い始め、すでに、三カ月は経っている。
「ちょっとしたすきに、スルって抜けて、ピューって行っちゃったの」
リードをしっかり握ってなかった事を、沙里は悔しそうに訴える。
「じゃあ、リードを付けたまま逃げたのか?」
「うん」
「なら、すぐみつかるよ、誰か、保護してくれるよ」
「探してよ、コータロー」
「うへー。今からかよ。この忙しい時に」
沙里は俺の腕を引っ張って揺らす。
「ねえー!」
と、強制的過ぎる。
「見に行ってあげなよ」
と、お袋が促す。俺は渋々エプロンを外して表に出た。
外は、すこぶるいい天気だった。思わず両手を上に伸ばし、大きなあくびを一つする。
「あーあ、気持ちいいなあ」
「もうー!何やってんの?早く探してよ」
と、沙里が文句を言って来る。しばらく歩いて行くと、かねもり製パンのおばあちゃんに会う。
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