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「あら、沙里ちゃん。あんたんとこのワンちゃん、紐付けたままのまんま、バ―バ―アライんとこを、ぼっち散歩してたわよ」
と、言うではないか。ままのまんま?ぼっち散歩?おばあちゃん、新言語の連発だな。頑張ってるなあ。
俺たちは、取り合えず、目撃情報を元に、バーバーアライに向かって早歩きした。この街はやたら坂が多い。つまり、山を切り開いて作った新興住宅地は、急坂に沿って軒を連ねている訳で、ここを登るのは息が切れる。ふと、バーバーアライの先を見れば、まさにキスミーが、電柱の近くをうろうろしているではないか。
「いた!」
と、俺が叫ぶ。
「沙里、来い」
俺は沙里の手を引っ張って走り始めた。コイツ、足、のろー。結局キスミーは、角を曲がり、がんがんと坂道を登って行く。
「うー!!足はやー」
さすが犬だな。そして、上ったり下りたりしながら動き回り、道行く人に訪ねたりもしたが、保護できなかった。
「ハ―!!休もうぜ、沙里」
と、声をかけながらも辺りを見回す。あれ?こんな所に?そこには普通の住宅を改造したような小さな教会があった。屋根に十字架も付いている。見ると、玄関から、フィリピン系のような顔立ちの、花嫁、花婿さんが出て来て、皆の祝福を受けつつ門に向かって歩いてくる。俺たちは、その様子を道端から、フェンス越しに眺めていた。沙里はその姿にうっとりとしていたようで
「ほー!きれー!!」
を、何度も連発していた。沙里もやっぱ女だったか。憧れてんだな、と、ほほえましい気持ちで奴の嬉しそうな顔を見ていると、沙里はニコニコしながら
「ワタシ、コ―タローのお嫁さんになっちゃおっかな!」
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