2 赤染めの水平線

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 まだ校内放送は続いている。  光希は再び、幻想の中で優美な色彩を構築する。空と海と太陽だけで完結する、鮮やかな緋色を。  そこから更に、水中の景色を下から並んで眺めている、二匹の小さな蟹を連想した。  太陽と月が入れ替わる宵闇の下、海に暮らす生きもの達は、夕日の色に染まる住処(すみか)を見つめているのかもしれない。  彼らにとって、それは美しいものなのか。それとも恐ろしいものなのか。覗いたことのない水底は、想像だけで光希の心を浮遊させた。  廊下を半分以上過ぎ、理科室の前に差し掛かったところで曲は途切れた。  淡い幻もポンと弾ける。  通り過ぎる寸前、真横で理科室の扉が開いた。 「あれ、鈴原。奇遇だな」 「あ……本条君」  夢から覚めたばかりのように、光希はぎこちなく、ぼんやりと顔を横に向ける。  実験用具を背に現れたのは、美術の時間中にも声をかけてきたクラスメートだった。 「ちょうどよかった。たまには一緒に教室に戻ろう。さっきは断られたから今回はいいだろ?」 「あ……うん……そうだね」  光希が鈍く頷く間に、本条は涼しい顔をして隣に来る。  二度目の偶然に光希は戸惑った。誰かの傍にいる緊張感が、自分を覆ってしまう気がして。
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