3 日常と悪夢

2/9
前へ
/78ページ
次へ
「お兄ちゃん、おかえりーっ!」 「わっ!」  リビングのドアを開けると、華奢な身体が光の速さで飛び付いてきた。避けられなかった光希は、強制的に小さな体温を胸に抱き止める。 「み、未鈴(みすず)……ただいま」 「待ってたんだよっ! 今日も一緒に謎解きゲームの続きしよー」 「ああ、うん、解ったから……その前に部屋で着替えたいから、離れてくれないかな……」 「はーいっ」  光希がやんわりと頼むと、未鈴は素直に従った。にこにこと可愛らしく笑ったまま。 「ふふっ……未鈴ったら、いくつになってもお兄ちゃんっ子なんだから」  洗濯物を畳んでいた母親の綾子(あやこ)は、仲睦まじい子ども達に優しい眼差しを送る。 「もう中学生だっていうのに。そんな調子じゃいつまで経っても彼氏できないよー?」 「そんなのいらないもーんっ」  綾子がやんわりとからかうと、未鈴は小さく頬を膨らませ、ぷいっと顔を背けた。  春から制服を着るようになったばかりの未鈴は、思春期の女の子だというのに異性には関心を示さず、かと思えば一つ上の兄には子どもみたいに引っ付いてくる。  もちろん光希にとっても妹は可愛いが、正直もう少し遠慮してほしかった。他の家の兄妹と比べたら、恐らく自分達は距離感がなさすぎるだろう。
/78ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加