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「お母さんだって、中学生の頃は彼氏なんかいなかったでしょ?」
「彼氏はいなかったけど、恋なら何度もしてたよ。お母さんにとって、あの頃は片想いを楽しむ時期だったからねー」
「えっ、そうなの? お母さんの昔の恋の話、聞きたーい!」
明るく華やぐ女二人の恋愛談義を背に、光希は自分の部屋に向かった。
ベッドの上に服を散らすでもなく、ゴミ箱の中身を溜め込むでもなく、部屋はすっきりと片付いている。散らかすほど物を置いていないせいだ。
荷物を置き、制服から私服に着替えてからも、すぐにリビングには戻らず、光希は軽くベッドに横たわった。
柔らかい感触に沈んで目を閉じると、癖のように、自然と記憶が刺激される。
────『クラムボンは死んだよ』。
すぐさま浮かび上がったのは、涼しげに笑う口から出てきた冷静な響きだった。
親しくないのに二度も気安く話しかけてきたクラスメート。本人は、光希に興味を持っていたわけではなく、単なる気紛れで接してきただけだろう。それでも、家族以外の誰かとあんなに長く話すのは久々で、光希は充足感を覚えていた。
しかし、その気持ちに浸ってはいけない。一時の喜びの後には、いつだって底知れない痛みが待ち構えていたのだから。
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