3 日常と悪夢

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 始まりは大雨の夜。雨風が容赦なく狂う闇の中だった。光希と未鈴の実の両親が死んだのは。  発端は、光希と未鈴の些細な言い争いだった。今思えば実にくだらないことだったが、まだ二人とも歳が一桁だった頃で、感情のセーブも上手くなかった。  その口論の末、光希は言ってしまった。  ────未鈴なんか大嫌いだ、と。  その直後に声を張り上げて泣き出した未鈴は、勢い余って家を飛び出してしまった。  父も、母も、慌てて未鈴を追って外へ出た。  今よりも幼かった当時の光希の目には、両親のその行動が、妹の味方をしてるように見えた。それに腹が立ち、一人コタツに寝転んだ。付けっぱなしのテレビの画面上部に“大雨洪水警報”の文字が浮かんでいたことにも気付かずに。  それから五分も経たない内に、玄関の開く音が聞こえた。泣きながら、未鈴だけが帰ってきた。  最初は無視を決め込んでいた光希だったが、妹が「ごめんなさい」とかすれ声で繰り返す内に、洗面所から持ってきたタオルでずぶ濡れの身体を拭いてやっていた。そうやって自然に和解した後は、居間で一緒に両親の帰りを待っていたが、時間が経つ内に二人揃ってコタツで眠ってしまった。  そのまま朝まで熟睡していた光希は、翌日になって自分達の罪を知った。  二人がコタツで夢の世界に旅立っている間に、父と母は視界の悪い場所で緩んだ土砂に呑み込まれ、この世から旅立ってしまった。
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