3 日常と悪夢

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 コンコン、と小気味のいい音を耳が拾うと、自然と目蓋が上がった。意識も現実へと舞い戻る。 「お兄ちゃーん。開けていいー?」  部屋の外から無邪気な声が続く。ドアをノックしたのは妹らしい。  ベッドに寝そべったまま、光希は無気力に「いいよ」と返す。  入ってきた未鈴は、光希と目を合わせると、途端に顔を曇らせた。力なくドアを閉めると、ベッドに近付いてくることなくドアにぺたんと背をくっつける。 「何か思い出してたの? 昔のこととか……」 「うん、まあ……色々ね」 「……誰のこと?」 「誰のってことはないけど……」 「嘘。本当の、お母さん達のことじゃないの?」  怯えた声がか細く震える。 「お兄ちゃん……私のこと、怒ってる?」  暗い後悔を閉じ込めた瞳。その幼い心は、色褪せもしない過去の鎖に絶えず囚われている。  時折、未鈴は実の両親を想い、瞳を翳らせる。その素顔を隠すかのように、養父母や他人の前では歳相応に明るく振る舞う。元気な仮面を外すのは、こうして兄の部屋を訪ねてきた時だけ。 「私のせいだもんね……私がっ……」 「未鈴っ」  光希は起き上がり、急いで妹の腕を掴んだ。未鈴の瞳は潤み始めてはいるが、血色のいい頬はまだ濡れていない。
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