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コンコン、と小気味のいい音を耳が拾うと、自然と目蓋が上がった。意識も現実へと舞い戻る。
「お兄ちゃーん。開けていいー?」
部屋の外から無邪気な声が続く。ドアをノックしたのは妹らしい。
ベッドに寝そべったまま、光希は無気力に「いいよ」と返す。
入ってきた未鈴は、光希と目を合わせると、途端に顔を曇らせた。力なくドアを閉めると、ベッドに近付いてくることなくドアにぺたんと背をくっつける。
「何か思い出してたの? 昔のこととか……」
「うん、まあ……色々ね」
「……誰のこと?」
「誰のってことはないけど……」
「嘘。本当の、お母さん達のことじゃないの?」
怯えた声がか細く震える。
「お兄ちゃん……私のこと、怒ってる?」
暗い後悔を閉じ込めた瞳。その幼い心は、色褪せもしない過去の鎖に絶えず囚われている。
時折、未鈴は実の両親を想い、瞳を翳らせる。その素顔を隠すかのように、養父母や他人の前では歳相応に明るく振る舞う。元気な仮面を外すのは、こうして兄の部屋を訪ねてきた時だけ。
「私のせいだもんね……私がっ……」
「未鈴っ」
光希は起き上がり、急いで妹の腕を掴んだ。未鈴の瞳は潤み始めてはいるが、血色のいい頬はまだ濡れていない。
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