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「怒ってない。僕は怒ってないよ」
「……本当?」
「うん。それに、元はと言えば、未鈴を傷付けた僕が悪いんだ。未鈴一人の責任じゃない」
未鈴の欲しい言葉が手に取るようにわかる光希は、一番安心させられる言い方を選んだ。
『お前は何も悪くない』だとか、『偶然が重なった不幸な事故だった』だとか、そんな手垢の付いた慰めは必要ない。悪気がなかったにせよ、自分達が引き金を引いたという事実は一生変わらないのだから。
「天国にいるお父さん達にはもう届かないけど……せめて、一生懸命生きて、償っていこう。一緒に」
「うん……」
温もりを求めるように、未鈴の手が、光希の手に伸びてくる。
交差する、幼い日の罪悪感。
罪の分かち合いなんか、一種の共依存でしかないのかもしれない。
でもそれは、今の光希を中心から支えている柱の一つでもあった。未鈴の苦しみを理解できるのは自分だけであり、また、自分と同じ痛みを共有してくれるのも未鈴だけ。他の誰にも代われない。
「……戻ろっか。そろそろ母さんが夕飯の支度を始める頃だから手伝わないと」
「うんっ」
光希が穏やかに笑うと、未鈴も明るい笑顔を取り戻した。
対面キッチンと繋がったリビングに戻ると、嗅ぎ慣れた味噌の匂いが漂っていた。綾子は既に、包丁を片手に夕食の準備に取りかかっている。
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