3 日常と悪夢

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「母さん。何か手伝おうか?」 「んー? そうだなぁ……あ、じゃあ悪いんだけど、光希は買い物に行ってきてくれる? 買い忘れちゃった物があって……」 「うん。いいよ」 「私も一緒に行くっ」 「未鈴はだめっ」  綾子は素早く未鈴の頭を軽く叩いた。 「未鈴はまた余計なお菓子買ってきちゃうでしょっ。ほら、未鈴はじゃがいもの皮剥き」 「えーっ」 「えーっ、じゃありません」  子どもの役割分担を隙なく決めた綾子は、娘の手に、じゃがいもとピーラーを持たせる。  そして、財布から取り出した千円札を、メモと共に息子の手に置いた。 「買ってきてほしいものはメモに書いてあるから。お金が余ったら、たまには光希の欲しい物買っていいよ。お菓子でもジュースでも」 「え……」 「えーっ! お兄ちゃんだけずるーいっ」 「ずるくない」  光希よりも未鈴が大袈裟に反応するが、綾子の表情が緩むことはなく、調理を再開した手も軽やかに作業を進めていく。 「お兄ちゃんは滅多に欲しがらないからいいの。未鈴には、買い物に行くたびに一個二百円も三百円もするお菓子買ってあげてるでしょー?」  母のもっともな言い分に、ようやく未鈴も口を閉ざした。頬を膨らませながら、おとなしくじゃがいもの皮を落としていく。  このありふれた日常が、いつ再来するかわからない悪夢に塗り潰されてしまいませんように。密かに祈りながら、光希は「行ってきます」と口にした。
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