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「面白いかどうかは別にして、鈴原の絵、俺は丁寧で綺麗だと思うけど。こんな上手くても鈴原は満足しないんだ?」
丁寧。綺麗。上手い。褒めてくれたはずの言葉がすんなり落ちてこず、むしろじわじわと追い詰めてくるように迫ってくる。
そんな立派なものじゃないのに。
空っぽな絵を指で撫でながら、光希は笑った。
「僕は……絵が上手いわけじゃなくて、見えてるものを写すのが得意なだけだよ」
「それって、何か違う?」
「全然違う」
緩やかに首を横に振る。
「僕には、見えないものは描けないから」
「ああ……なるほど。そういうこと」
「うん。だから、自由に絵を描ける人って、本当にすごいなって思う。技術だけじゃなくて、想像力も豊かだってことだから……」
「すごいとは思っても、画家でもイラストレーターでもない相手に憧れてるんだな。鈴原は」
際どい角度からつついてくる本条に、光希の顔は強張った。
一瞬で悟られ、突き付けられる。
その通りだ。目を奪われた絵はいくらでもあったのに、胸を焦がすのは、真っ先に思い出せるのは、幼い頃に触れた青い幻燈だけだった。
校舎内にチャイムが鳴り渡る。授業の終わりを告げる音。それは、今の光希達にとって、絵を描く時間の終わりをも意味していた。
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