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一方で、少女の衣装は少々奇妙だった。涼しげなベストにプリーツスカート、その上から羽織るケープ・ローブ……今のヒヒロクは春の季節。
気温が安定しにくい時期に、なぜかその衣装はやや軽装。そして、左手だけに手袋が嵌められていた。
少女は誰かを待っているらしい。背中に背負った革製カバンのベルトに手をかけ、機嫌良さそうにハミングしながら時間をつぶしている。
と、その時。
「……痛っ!」
背後から上がった苦痛の声に、何事かと少女が振り返る。
そこには指を押さえて顔をしかめている一人の老人の姿。足下には落ち葉やら小枝が詰められた金属バケツ。
そして、火炎石が転がっていた。
「ど、どうしたんですか? お爺さん」
見知らぬ老人ではあったが、少女は心配そうな表情を浮かべ、迷わず老人の元へと駆け寄った。
「おや? いやぁ、はは……情けないのう」
心優しい少女を前に、老人は照れ臭そうに苦笑する。
「実は片付けたこのごみを燃やそうとしたのじゃが、手元が狂って火炎石で指を打ってしまってのう」
見れば、老人の指が少し腫れて赤くなっている。特に大事はなさそうだが、それなりに痛そうだった。
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