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それは、よく晴れたある早朝の一風景。
「はぁ……。俺さ、つくづく思うわけなんだが。働いたら負けだってな」
長く険しい修行の果てに悟りを開いた聖者のような表情で男――サーファは言う。
呆れを通り越し気だるげに頬杖をついて、テーブルを挟んで正面に腰かける妙齢の女に視線を送る。
「正直、お前のおかげで生きていられる。お前がいてくれて感謝してる」
サーファの視線を受け、女が優雅な振る舞いで足を組み替える。ティーカップを傾けながらこう返す。
「ふ、そうか。なら死ね、居候」
さらりと毒を吐く女の顔には、可憐な微笑が花咲いていた。
「ふっ。さすがセシルは手厳しい……あ、ついでにおかわり」
サーファはものともせずに、空になったスープの皿を目の前の女――セシルの鼻先に突きつける。
「清々しいな、お前は」
セシルはやはり微笑んでいる。
「普通、働きもしない居候って、もうちょい謙虚になるもんだぞ」
「皿洗いしてるだろ。あー、今日は塩味が効きすぎだったな。俺は薄味の方がいいね」
「その上、ダメ出しとは恐れ入るし働いてないだろう」
セシルはしばらくの間、穏やかにもにこにこと笑って――
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