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何度かけても繋がらない。
それどころかメールもラインも受け付けない。優子の携帯は、解約されていた。
激しく打ち始めた動悸をなんとか抑えながら、必死で車を走らせる。
まさかとは思う。
まさかとは思うが。
嫌な想像はすぐさま現実になった。
優子の部屋のドアは、既に俺が持っている合鍵では開かなくなっている。隣の人の話では、数日前に引っ越したらしい。
電話は繋がらない。
家は引っ越してしまった。
優子の友人の連絡先なんか知らない。
参った。
優子は本気で俺との関係を断とうとしている。
その事実に、目の前が真っ暗になった。昨日までこんな事は想像すらしていなかった。素直じゃなくて無茶ばかりの俺を優子がこれからも支えてくれると、何の疑いもなく信じていた。
でも、優子は…
もしかして、余命半年だというのも本当なのだろうか。それとも俺に嫌気がさして、結婚を諦めさせようとついた嘘なのか。どちらにしろ優子は強い意志で連絡手段を封じている。
今週末は、優子のご両親に正式に挨拶に行く予定だった。式場巡りに挨拶と、プライベートが忙しくなる事を見越して、今朝まで死に物狂いで仕事を詰めて詰めて、やっと終わらせてきたというのに。
激しい虚脱感に襲われて、床に座り込んだ。壁にもたれて焦点の合わない目で虚空を見つめる。
不思議と涙は出なかった。
「ははは…」
口から勝手に自嘲の笑いが漏れる。
照れ隠しの言葉ひとつ聞かれたくらいでこうもすっぱり縁を切られるなんてな。よっぽど俺は信頼されてなかったらしい。
…幸せにするつもりだったのに。
面倒臭いし照れ臭いが、結納も式もちゃんとして、親戚付き合いだってやる覚悟だったのに。
まだ電話でしか話した事がない優子の親父さんとお袋さんに、ありきたりだけど「優子さんを必ず幸せにします」って誓うつもりだったのに。
そこまで考えて、ふと思い当たる。
…優子の実家の電話番号なら、ご両親に繋がるじゃないか! アホか俺は!よっぽどテンパっていたらしい。
急いで携帯電話を取り出して、優子の実家に電話をかける。これほど、4コールが心臓に悪いものだと、俺は始めて知った。
出たのは、親父さんだった。
優子の婚約者だと名前を告げると、いきなり親父さんから怒鳴られる。
「お前のせいで、優子はーーー!!」
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