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「僕もあの時一緒に死んだ」
「違うな。さっき見たとおり生きている」
否定する猫に、僕は反論できない。
そうだ、あの時一緒にいつもの散歩で公園を出た時に車にひかれたんだ。
抱いてかばったのに、助けられなかった。
「ごめんな」
頭を撫でて謝罪する僕に、猫はノドを鳴らして目を細める。
「元々あの時で終わる命だ。気にするな」
短い尻尾をフルフルうごかす様子は、見ていて飽きない。
ずっと撫でて見ていたい姿だったけど、僕の手から離れて扉とは反対の方向に歩き出す。
「はよ、行ってこい」
素っ気ない言葉に、僕は苦笑いする。
いつも通りの別れ方をして見送る猫に「またね」と返して立ち上げる。
扉の前で、一度立ち止まり振り返る。
黒猫は短かい尾をふりながら遠くへと歩いていき、やがて見えなくなった。
普段と変わらなかった後姿に、僕は目がうるむのを
こらえながら、扉を勢いよく開いた。
目をさすような光を見た後、ベッドの前で上で起きた僕は、黒猫を忘れてしまったことに気づくことはなかった。
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