第1章

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「僕もあの時一緒に死んだ」 「違うな。さっき見たとおり生きている」 否定する猫に、僕は反論できない。 そうだ、あの時一緒にいつもの散歩で公園を出た時に車にひかれたんだ。 抱いてかばったのに、助けられなかった。 「ごめんな」 頭を撫でて謝罪する僕に、猫はノドを鳴らして目を細める。 「元々あの時で終わる命だ。気にするな」 短い尻尾をフルフルうごかす様子は、見ていて飽きない。 ずっと撫でて見ていたい姿だったけど、僕の手から離れて扉とは反対の方向に歩き出す。 「はよ、行ってこい」 素っ気ない言葉に、僕は苦笑いする。 いつも通りの別れ方をして見送る猫に「またね」と返して立ち上げる。 扉の前で、一度立ち止まり振り返る。 黒猫は短かい尾をふりながら遠くへと歩いていき、やがて見えなくなった。 普段と変わらなかった後姿に、僕は目がうるむのを こらえながら、扉を勢いよく開いた。 目をさすような光を見た後、ベッドの前で上で起きた僕は、黒猫を忘れてしまったことに気づくことはなかった。
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