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一瞬だけ見えたものに、僕は動けなかった。
僕そっくりの人間が、知らない部屋で寝ていた。
同じ白い部屋だけど、他にも色があって静かで温かみのある部屋。
手からこぼれた黒い欠片は、床に落ちると様々なものを見せて更に細かく砕ける。
勉強している僕。
テレビを見ている僕。
学校をサボッて公園で泣いていた僕。
野良猫を可愛がっている僕。
そのどれもが、見覚えがあり知っていた。
最後に落ちた欠片が見せたのは、僕より大きな人が寝ている僕そっくりな人を、寂しそうに見ている。
その人の顔を見た次の瞬間、目の前が赤く染まって白い床になった。
「ふ、ふふ、馬鹿だろ、あれ」
最後に見たもので、僕はさっきまで忘れていたことを思いだしてしまった。
「思いだしたら、開けなさい」
再び声が響くと、砕け落ちた欠片が集まり目の前に黒いドアが現れた。
「嫌だね」
「なにを、嫌がっている?」
問いかけの声は、足元から聞こえた。
視線を落とせば、一匹の黒猫が座っていた。
さっき見た中で、野良猫だけどなぜか僕になついてくれた賢く大切なかわいいやつ。
金色に光る瞳をみて僕は口元を歪める。
「だって、起きたらお前がいない。寂しいよ」
「仕方ない。死んだからな」
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