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「おっ、あ、ううっ・・・・・・!」
無我夢中で剣を振り回す。そこには俺が憧れたような、ゲームの勇者のカッコ良さなど微塵も存在しない。駄々っ子の方が今の俺の姿に近い。
「わー、痛い痛い。」
剣の切っ先が運良く魔王に掠る。掠ったくらいなのに、痛い訳ないだろ・・・!
魔王はヘラヘラ・・・いや、ニヤニヤしながら俺をどんどん壁際へと追いつめていく。
・・・・・・怖い・・・逃げたい・・・!攻撃をもろに食らって服が破けたり怪我したりすると喜んで、こっちが反撃しても嬉しそうにする相手に立ち向かうなんて、ホラー以外の何物でもない。
「ほら、観念しなよ・・・。」
「くっ・・・・・・。」
1時間に及ぶ攻撃(口撃)により、もはや上半身裸のような状態の中、肩に触れた固い感触。・・・ずっと防御に徹していたら、ついに壁に到達してしまった。
「ひっ・・・!」
ツツ・・・と腹部に縦に沿う魔王の指。段々と距離が縮まっていく俺と魔王の唇。そして────
「やっと・・・、手にいれた・・・。」
熱を帯びる魔王の双眸。・・・・・・やっぱり怖い・・・!
「・・・っやっぱ無理だああああああ!!!」
「ウッ!」
「・・・・・・へ?」
生理的に魔王を受けつけられず、勢いあまって剣を振りかざした。小さく漏れた呻き声に目を開けると、魔王の脇腹を貫いていた。
・・・・・・てことは・・・。
「え、倒せたの!?」
全く狙っていなかったが、どうやら倒せたようだ!思わず頬を緩ませ、緩ませ・・・?
ズッ
「残念♪」
「え・・・え・・・?」
まるで我が子の成長を見守る母のような笑みを浮かべながら容易く剣を抜く魔王がいた。
魔王は倒されてなどいなかった。いや、むしろ・・・
「あー、死ぬのは嫌だけど、今のはレオからの一撃だからねえ・・・。擦り傷程度だからこの状態で戦おうかな・・・。」
より顔のニヤつきが増した気が・・・。俺が絶望にうち震えていると・・・。
「怯えた顔も可愛いね・・・。大丈夫、殺したりなんかしないよ。ただ・・・。」
「ただ・・・?」
「(ニッコリ)」
「嫌な予感しかしねえ!」
「冗談だよ、冗談♪一緒に『遊んでもらう』だけだから♪」
「お前の場合普通の意味じゃねえだろ!変態!」
俺の暴言にも顔を輝かせている・・・。
・・・・・・ああ、神様・・・・・・。
・・・なんで、なんで俺を魔王が倒せる世界に転生させてくれなかったんだよおおおお!!!!
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