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夜の寒空の下、
ジンは境内の石段に座ってアヤが
部活から帰るのを待っていた。
背中を丸め、抱え込んだ膝に頭を乗せる。
水嶋だけで無く、
自分も許せなかった。
悔しくて、悔しくて。
情けなくて、情けなくて。
(……クソッ)
腹が立って、腹が立って。
叫び出したい程、腹が立った。
あの昇降口のケンカの後、
水嶋がアヤに、
「綾瀬、お前は、このまま部活に行け」
嫌だ。っと言うアヤに弓を渡し、
木下に道場に連れて行くように頼んだ水嶋。
オレは、そんな事すら浮かばず怒りまくっていた。
ほんと (情けね…)
ほんとーはジンにも解っていた、
水嶋をずーっと見てきた。
アヤの事が好きだとしても、あんな事を本気で、
やるヤツじゃ無いって事は…
だから余計に自分が許せなかった。
近づく足音に頭を上げるより先に、
『ジン…』
アヤの声が聞こえた。
顔を上げてアヤを見る。
薄暗い街灯がアヤの顔に影を作っていた。
それでも、笑っている事は口元で解った。
『寒いのに、そんな所で待ってたのか?
部屋に入ってれば、よかったのに』
ジンが立ち上がり、アヤの前に立つ。
アヤはジンを見上げた。
『…泣いてた…』
首を振る。
泣きたいのはオレじゃなく、アヤだ。
アヤにそっと手を伸ばす。
アヤの唇を親指でなぞる。
『…ジン…』
また、ジンの名前を呼んだ。
アヤの目を見る。
不安そうなアヤの瞳。
思わず抱き寄せた。
頬が触れた。
『ジン、顔 冷たいな…』
アヤの声は、上擦っていた。
「…ごめん、アヤ、ごめんな」
『なんで、お前が謝るんだよ、謝るような事なんて、してないだろ… 』
「時間なんか、空けたって何も変わらないのを分かっていながら… オレの気持ちを押し付けていたのかも」
アヤは顔を上げジンを見た。
『そんな事ない。オレはジンを待ってたよ』
ジンがアヤの唇を見つめる。
また、そっと親指で唇の形をなぞる。
「…キス…してい…」
唇から視線を外さずに聞いた。
バクバクする心臓。
耳の中まで響く鼓動。
アヤは小さく頷いた。
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