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カフェというより、昔ながらの“喫茶店”という名称の方がしっくりくる店。
レトロな店内は、珈琲の芳しい香りに包まれていた。
落ち着いた佇まいの中、まるで外界から切り離されたように時間がゆっくりと流れる。
運ばれてきた珈琲に口をつけ、ふぅと小さく息をつく彼女。
僕はそんな彼女の様子を、一見冷静なふりをして見守る。
しかし、心の中は冷静とはほど遠く、グルグルと色々な感情が渦巻いていた。
僕と彼女は付き合っていた。
もう三年以上になる。
付き合い始めた頃から、いや、付き合い始める前から、僕は彼女をパートナーとして意識していた。
──人生を一緒に歩いていくパートナー。
彼女には伝えていなかったけれど、僕は初めから“結婚を前提として”考えていた。
なのに、プロポーズするまでどうして三年以上もかかったのか。
それは、付き合い始める時に彼女が言った一言。
「私、昔付き合っていた彼…大好きだった人を、亡くしてるの」
恋愛に奥手だった彼女が、高校生の時に初めてできた彼氏。
ずっと好きで好きで、やっと思いが通じ合った相手。
だからこそ、彼女の中でその彼の存在は大きく、これからの人生、ずっと彼を愛していくのだろうと思っていた。
彼女はそう言った。
「まだ子供だったからこそ、純粋で、一途で。そして彼も…汚いトコロなんて全然見せてくれなかった」
純粋で一途だからこそ、不器用ではあったけれど、お互いを大切に思っていた。
毎日が楽しくて、世界がキラキラと輝いていた。
こんな毎日がずっと、当たり前に続いていくと信じていた。
それが、ある日突然、裏切られた。
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