さようなら

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きっと、「閉店時に送る日報に、新しい項目ができたので、記入お願いします! 連絡遅くなってすみません!」とかだろう。うちのバイトリーダー、もとい岡本君はいつも連絡が遅い。 彼は、よく仕事はできるし色々と動いてくれるのだが、どうもドジっぽいというか、ここぞというところでミスをしたり忘れてしまったりと、信頼はできるが信用はできない男の子だ。 まぁ、私も忘れっぽいところはあるので、人のことを言えたことではないのだが。 腕組みをしたまま、私はじぃっとスマートフォンを見つめている。このLINEも、キッチンの異常と同様、見なかったことにしようか。充電が切れていたとかなんとかで、やり過ごそうかな。 別に仕事をしたくないわけではない。ただ、今日はどうしても終電までに家に帰りたい。 昨日の夜に、約束をしてしまっていたのだ。「明日はカレーを一緒に作ろうか」と。 あぁ、そろそろケイが私の家に転がり込んでいてもおかしくない時間だ。冷蔵庫に入れておいたプリンの命が危ない。 よし、帰ろう。 間違ってもロック画面を解除しないようにしなければ、既読がついたら詰みだ。そうっと、そうっと、スマートフォンに手を伸ばした。 「ティリリリリ!」 「うぉぅっ!」 すると、爆音で店の電話が鳴り響いた。 今度は誰だ、こんな時間にかけてくるだなんて。もしかしたらSVかもしれない。それはかなり長くなりそうだ、かなりやばい、やばすぎる。が、もしお客さんだったとしても非常識だな。 しかし、もうすでに2つもスルーしてしまっているせいか。さすがにこれを無視してしまうのには、なんとなく罪悪感を感じてしまい、 「はい、お電話ありがとうございます! 『創作料理 海堂』神戸店、北山がお受けします!」 ババンっ、とスイッチを切り替え、声を1オクターブ上げながらテンプレートを読み上げた。 すると、返事は予想だにしないものであった。 「あ、兵庫県民医療救急病院の者です、北山さんですか!?」 「はい、そうですが……」 病院から電話?私宛に? 受話器越しからでも伝わる騒々しさと、電話主の荒い息遣いにどぎまぎしながら、私は自分の思考を巡らせつつ、その病院の人の言葉を待った。
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