第1章

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君は、ちょうど条件がいいんだ」 男はそう言うと、ハサミで、ジョキジョキと俺の服を切り始めた。 「あ……何する……やめろ」 俺は、身体をモゴモゴとうごかして、抵抗しようとしたけれど。 両手両足が縛られているせいで、自由に動くことが出来なかった。だから、ただ、男が俺の服を切り刻んでいくのを見ているしかなかった。 男は随分と手際がよくて、「あっ」という間に、パンツ一枚にされてしまった。 そうなると、恥ずかしい…という思いがこみ上げてきた。 どうして、俺をこんな風に裸にするんだろう。 「な……なんで……こんなこと……」 男の方をみあげた。男は、酷薄そうにニヤリと顔をゆがめていた。 その表情に、一瞬ゾッとして、身体に悪寒が走った。 「あぁ、腕に日焼けの後がまだ残って居るんだね。これは、ちょっといただけないかな…」 男は、俺の腕をさすっていた。 今年の夏は、毎日予備校に通って、勉強をしていたけれど。学校の体育の授業だとか、予備校・学校の往復の時のせいで、腕には、かすかにだけれど、半袖の日焼け跡がのこっていた。 男は、その境目の部分を撫でて、嫌そうに顔をゆがめていた。 「なんで……なんで…こんな…こと」 俺は、その「男」が不気味に見えて、掠れた声しかでなかった。 人は、本当に怖いときには、声をあげることができないんだ…と頭のどこか。冷静な部分で考えていた。 男は、俺の質問には答えず、まるで聞こえていないかのように、表情も変えていなかった。 俺は、自分がパンツ一枚になってしまったのが恥ずかしくて、身体をできるだけ丸めようとしていたけれど。 男はスタスタと立ち上がって、部屋を出て行った。 ベッドの上にいる、「敬偉」と呼ばれていた人に「……どうして…」と声を掛けてみたけれど。何の返答も帰ってこなかったし、ピクリとも動かなかった。 すこしすると、ドアが開いて、男がまた入ってきた。盆のような物をもっていた。そうして、横たわっている俺の隣にしゃがみこむと、皿を置いた。上には、大きなおにぎりが3つ乗っていた。 「晩ご飯だ。食べるといい」 男は低い声で言っていた。 最初、両手が縛られているせいで、「どうやって食べるんだ」とおもったけれど。 男は俺の両手をほどく気はないらしい。前髪をつかんで、皿の方に引きずられた。 「こうして食えよ」 「う……」 顔に、おにぎりが押し当てられた。
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