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君は、ちょうど条件がいいんだ」
男はそう言うと、ハサミで、ジョキジョキと俺の服を切り始めた。
「あ……何する……やめろ」
俺は、身体をモゴモゴとうごかして、抵抗しようとしたけれど。
両手両足が縛られているせいで、自由に動くことが出来なかった。だから、ただ、男が俺の服を切り刻んでいくのを見ているしかなかった。
男は随分と手際がよくて、「あっ」という間に、パンツ一枚にされてしまった。
そうなると、恥ずかしい…という思いがこみ上げてきた。
どうして、俺をこんな風に裸にするんだろう。
「な……なんで……こんなこと……」
男の方をみあげた。男は、酷薄そうにニヤリと顔をゆがめていた。
その表情に、一瞬ゾッとして、身体に悪寒が走った。
「あぁ、腕に日焼けの後がまだ残って居るんだね。これは、ちょっといただけないかな…」
男は、俺の腕をさすっていた。
今年の夏は、毎日予備校に通って、勉強をしていたけれど。学校の体育の授業だとか、予備校・学校の往復の時のせいで、腕には、かすかにだけれど、半袖の日焼け跡がのこっていた。
男は、その境目の部分を撫でて、嫌そうに顔をゆがめていた。
「なんで……なんで…こんな…こと」
俺は、その「男」が不気味に見えて、掠れた声しかでなかった。
人は、本当に怖いときには、声をあげることができないんだ…と頭のどこか。冷静な部分で考えていた。
男は、俺の質問には答えず、まるで聞こえていないかのように、表情も変えていなかった。
俺は、自分がパンツ一枚になってしまったのが恥ずかしくて、身体をできるだけ丸めようとしていたけれど。
男はスタスタと立ち上がって、部屋を出て行った。
ベッドの上にいる、「敬偉」と呼ばれていた人に「……どうして…」と声を掛けてみたけれど。何の返答も帰ってこなかったし、ピクリとも動かなかった。
すこしすると、ドアが開いて、男がまた入ってきた。盆のような物をもっていた。そうして、横たわっている俺の隣にしゃがみこむと、皿を置いた。上には、大きなおにぎりが3つ乗っていた。
「晩ご飯だ。食べるといい」
男は低い声で言っていた。
最初、両手が縛られているせいで、「どうやって食べるんだ」とおもったけれど。
男は俺の両手をほどく気はないらしい。前髪をつかんで、皿の方に引きずられた。
「こうして食えよ」
「う……」
顔に、おにぎりが押し当てられた。
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