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ヒジュラ暦700年(西暦1300~1年)某月某日。
小柄な年配の男性が街路の向こうから走ってくる。
まるで風圧で押し退けられたかのように人々が道を開けている。
そのただならぬ「気」の高まりに、日頃「召使いのくせに気の利かないヤツ」と言われているアブドゥッラーも気付いた。
向こうから走ってきたオヤジが……目だけは無垢な少年のようにキラキラさせたオヤジが、竜巻のような勢いで屋敷に跳び込んできた。
「アブドゥッラー君! アブドゥッラー君!」
オヤジはまだ風に包まれているかのように衣服の裾を跳ね踊らせながら叫んだ。
「先生、何事です、こんな時間に……」
そう、この一見なんてことない普通のオッサンが、イル=ハン国の宰相、ラシードゥッディーン=ファズラッラー=ハマダーニーその人である。
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