降る時を知り

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 太一は、車を運転しながら、女の横を通り過ぎようとした時、女に気付くと、ハッと目を見開いて一瞬身を硬くした。    「僕達がもし、平均寿命まで生きられるなら、僕が死んだ後20年近く君は一人になってしまうね。」  「・・・・・・」  佐和子は黙って俯いている。  「それでもいいのかい?」  「・・・先のことなんて、わからないわ・・・。」  間もなく40才の誕生日を迎えようとしていた或る日、太一は12才年下の佐和子にプロポーズをした。  佐和子は何も言わず俯いて、「YES」とは言わなかった。けれど、「NO」ではないのだと、一緒になりたいと思っているに違いないのだと太一は思っていた。  そして言った。その返事が「先のことはわからない」だった。  僕の方が彼女よりかなり先に死んでしまうかも知れない。が、「そんなことを心配してもしょうがない。」だから「YES」。太一はそう解釈したのだった。  季節外れの雪がふわふわと舞い、佐和子の頬に落ちてとけた。太一は、その頬を自分の頬に押しつけるように抱きしめると、少し熱いとも思える雪解けの水が、その頬と頬の間を流れていった。  二人は、はっきりした返事もしないまま聞かないまま、式の段取りをし、入籍を済ませ式を挙げた。  そして・・・、  あれから10年が過ぎた・・・。
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