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佐和子はそのことに敏感に感付いていた。
この緩やかで長期間に及ぶ喪失感、孤独感は、彼女にとって、とても残酷なものだった。彼女自身もできるだけ目を逸らして過ごそうとしたが、事あるごとに、厳然たる事実として、彼女の心を苛んだのである。
「今が、一人でいるより寂しいのなら、一人になる。」
とうとう、そう決心をつけたのだった。
「さわーっ!!」
太一は堪らず車の中で彼女の名を叫んでしまった。今ようやく彼女の寂しさがわかったのだ。今になってようやく彼女がどんなに辛い思いをしてきたか彼にもわかったのだ。そして大きな喪失感は、太一の罪悪感を最大限に増幅した。
「僕は、自分が愛した人の人生を台無しにしてしまった。」
「詫びても詫び尽くせないんだ。佐和子の10年は、もう返してやれない・・・。」
「この10年間、僕は、彼女の命を奪っていたようなものかも知れない。」
「僕は一体何を得ようとしていたんだ?」
「一体何を得ようとして自分自身を見失い、そして大切な人を失ってしまったのか?」
しかし、全ては今朝終わったのだ。
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