降る時を知り

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 「お帰りなさい。」  「・・・・・・。」  食卓には二人分の食事が並べられている。    家の中の様子は、何もかもが、太一が出掛けた朝のままだった。  勿論と言うべきか、何故だかと言うべきか佐和子も居た。  「・・・どうして・・・?」  太一は息を切らしながら、絞り出すような声で尋ねた。  「なんだか面倒臭くなちゃったのよ。引っ越すのが。」  太一は佐和子に飛びつくようにして彼女を抱きしめた。  そして彼女を抱きしめながら、愛おしそうに言った。  「君は何時でも、君らしい!」  「そうかしら?」  「でも、それって特別なこと?当たり前のことなんじゃない?」  佐和子が太一の眼を見ながらそう言う。  しばらく間をおいて、意を決したかの様に太一が佐和子の眼を見て言った。  「折角だけど、やっぱり故郷へ帰ろう。」  佐和子の表情が硬くなった。そして太一の腕を払おうと腕に力を入れる。  「私はここに居てはいけなかったのね?」  太一は自分の腕を振り払おうとする佐和子を更に力を強めて抱きしめながら言う。  「僕と一緒にだ!」  佐和子の力が抜けて、太一も少し力を緩める。  「僕と一緒にね。僕と一緒に君の故郷に帰らないか?」  太一は彼女の頬に自分の頬を当てて囁くように聞いた。  柔らかい頬、薄い耳が少し冷たい。  「佐和子だ・・・。」  紛れもない佐和子だった。  「何年ぶりだろうね?」  彼の心に佐和子が帰ってきたのだ。  それは彼女にもわかっていた。
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