5人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
「仕事はどうするつもり?」
「明日から2週間引き継ぎをしたら、有給消化を2週間。」
「そしたら、ゴールデンウィークだ!」
「今年のゴールデンウィークは、1カ月のロングバケーションになったのさ。」
「よく思いきれたわね?」
「あと5年頑張って、早期退職制度を使うんじゃなかったの?」
「わはは、そうだった!忘れていたよ!」
勿論忘れてなどいなかった。佐和子がいなくなった街で5年間も暮らす気になれなくなってしまっていたのだ。
退職金の僅かな差額など会社にくれてやる。今はこの5年を彼女のために使おう。心からそう思う。少しでも彼女に罪滅ぼしができるならどんなにか幸せだろう。
佐和子は太一に抱かれながら故郷の川を思っていた。丁度今頃は、冷たく、澄んだ雪解け水が流れている。ほとりの花達は東北の遅い春を待ちわびている。やっと訪れた春に、皆が一斉に花を咲かせるのである。一年で一番華やかで美しい時季だ。
最初のコメントを投稿しよう!