プロローグ/ヘレン

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十字架を背負うという言葉回しがあります。端的に言えば責任を持つという事でしょうか。これまで多くの人間を殺めた私ですが、そこに後悔はありません。なぜなら、私は大多数の他人に価値を見出すことが出来ていないからです。少々傾倒した文献言葉を引用するならば人間などこの世界でもっとも希少価値のない生き物であり他生物の多くにとって害獣でしかない。などという一文がありますがまして、自身の知り得ない人物になどそれこそ価値は見出せないというのが私の本心なのです。とはいえ、それは他人に限るお話に御座います。そんな私にも一つだけ背負う十字架が、妹を見殺しにした十字架だけは重く重く今も私の胸に背負わされているのです。これは私がまだJの名さえ持たない名無しの頃のお話です。 「ちぃ!!あの小僧どこへ行った!?」 「あん?聞こえないんだ。この辺にゃいねーだろ!!」 「クソが!!絶対許さねえぞ!!」  中年の男二人が血眼になって探す少年。それがかつての私。物心ついた時からの孤児、自分の意思とは無関係に他者に自分の思考を伝えてしまう異能、伝心を持つ私は何よりも弱い存在でした。まして、少年期であった私に働き口など御座いません。当然食事の確保は窃盗の類に限られていましたが、盗む事も逃げ道も己の伝心で相手に全てを明かしてしまう私の窃盗は成功率の極めて低いものであり、失敗の度に体中を殴り蹴られるという最低の生を送っていました。そんな私が彼女と出会ったのは成長期に入り、身体能力がある程度高くなる事でこの窃盗の成功率が僅かばかり上がったある年の出来事です。  彼女と私には血のつながりはありません。ただ、彼女は私を兄の様に慕い、当時の私は彼女にだけ心を開いていました。そうなるに至ったのは彼女の病に関係があったのだと思います。
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